大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

名古屋高等裁判所金沢支部 昭和35年(ネ)223号 判決

控訴人(被附帯控訴人) 畑田合資会社

被控訴人(附帯控訴人、訴訟告知人) 金沢信用金庫

当事者参加人(被告知人) 小松松次郎

被告知人 増田善松

主文

当事者参加人の本件参加申立を却下する。

控訴人(被附帯控訴人)の本件控訴を棄却する。

控訴人(被附帯控訴人)は被控訴人(附帯控訴人)に対し別紙目録記載の不動産につき昭和三四年五月七日金沢地方法務局受附第六九四四号を以てなされた昭和三四年五月七日付売買による所有権取得登記の抹消登記手続をしなければならない。

訴訟費用中昭和三五年(ネ)第二二三号事件について生じた分は当事者参加人の負担とし、昭和三五年(ネ)第一二一号事件、及び同年(ネ)第一九六号事件について当審において生じた分はいずれも控訴人(被附帯控訴人)の負担とする。

事実

(一)  昭和三五年(ネ)第二二三号事件について、

当事者参加(以下単に参加と略称する)代理人は

原判決を取消す。

被控訴人の請求を棄却する。

控訴人及び被控訴人両名は参加人に対し控訴人と参加人との間に昭和三四年七月二日締結された貸主参加人、借受人控訴人、貸金額金五五〇、〇〇〇円、支払期日昭和三四年七月二日、特約支払期日に弁済を遅滞したときは以後完済まで遅滞金額に対し一ケ月三分の割合による損害金を支払うことの債権のため別紙目録記載の物件についての順位第一番の抵当権設定契約並びに右物件につき前記債権のため同日金沢地方法務局受附第八二四五号を以てなされた第一番順位の抵当権設定登記のいずれも有効なることを確認する。

参加により生じた訴訟費用は控訴人及び被控訴人の負担とする

旨の判決を求め、

控訴会社代表者は参加人の請求どおりの判決を求め、

被控訴代理人は参加人の請求を棄却するとの判決を求め、

(二)  昭和三五年(ネ)第一二一号事件について、

控訴会社代表者は、

原判決を取消す。

被控訴人の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

旨の判決を求め、

被控訴代理人は控訴棄却の判決を求め、

(三)  昭和三五年(ネ)第一九六号事件について、

附帯控訴代理人は

原判決を次のとおり変更する。

訴外畑田外次が昭和三四年五月七日控訴人(被附帯控訴人、以下単に控訴人と略称する)との間に為した別紙目録記載の不動産についての売買契約はこれを取消す。

控訴人は被控訴人(附帯控訴人以下単に被控訴人と略称する)に対し別紙目録記載の不動産につき昭和三四年五月七日金沢地方法務局受附第六九四四号を以てなされた昭和三四年五月七日付売買による所有権取得登記の抹消登記手続をしなければならない。

訴訟費用は第一、二審とも控訴人の負担とする。

旨の判決を求め、

控訴会社代表者は附帯控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述並びに証拠関係については、参加代理人において、(一)参加人は控訴人に対し昭和三四年六月二日付金沢地方法務局所属公証人名越快治作成第九二五一五号抵当権設定金銭貸借契約公正証書に基き金五五〇、〇〇〇円を支払期日同年七月二日、若し右支払期日に債務の弁済を遅滞したときは以後完済まで延滞金額に対し一ケ月三分の割合による損害金の支払を受けることの約定で貸付け、控訴人との間に右債務を担保するためその所有の別紙目録記載の物件について第一番順位の抵当権設定契約を為し、かつ同日付を以て金沢地方法務局受附第八二四五号の第一順位の抵当権設定登記を受けた。(二)、債務者である控訴人は右支払期日に至つても右借受金を返済しないので、参加人は昭和三四年一一月四日別紙目録記載の抵当物件に対し任意競売の申立を為し、該事件は金沢地方裁判所昭和三四年(ケ)第一三八号事件として、同裁判所に繋属し、同年九月二一日競売開始決定がなされ、次いで同年一一月九日競売期日が指定された。ところが、被控訴人より同裁判所に対し右競売の目的物件は訴外畑田外次の所有に属する物件で控訴人の所有でないとし、その理由として、控訴人は右物件を昭和三四年五月七日(昭和二九年九月二四日とあるは上記の誤記と認める)付売買契約により訴外畑田外次から買受けたとして該売買による所有権移転登記も了しているが、右は控訴人及び訴外畑田外次が同訴外人の債権者である被控訴人の債権を害することを知つて為した売買契約であるから、詐害行為として取消さるべきもので、右売買目的物件の所有権は依然として訴外畑田外次の所有に属し、参加人のために任意競売されるべき筋合でないとして、右競売停止の決定を受け、かつ参加人を相手方として第三者異議の訴を同裁判所へ提起し、同裁判所昭和三五年(ワ)第九〇号事件として繋属中である。(三)しかし、参加人の控訴人に対する前掲金銭消費貸借はいずれも真正に成立した適法なものであり、また前掲抵当権設定契約も真実の所有者である控訴人より善意の第三者として設定を受けたものであるから参加人の為した抵当権設定契約はもとより有効であるといわなければならない。従つて、控訴人と訴外畑田外次との間の前記売買契約は参加人との関係においては有効なものというべく、何等詐害行為を構成すべきものではない。よつて、被控訴人の本訴請求は失当として棄却されるべきであり、同時に控訴人並びに参加人間の前掲抵当権設定契約並びに該契約を原因とする抵当権設定登記もともに有効であることの確認を求めるため本件参加に及んだと述べ、被控訴代理人において、昭和三五年(ネ)第二二三号事件について参加人の右主張事実中(一)の事実は不知であり、(二)の事実は認める、(三)の事実は否認する、昭和三五年(ネ)第一二一号、同年(ネ)第一九六号事件について、本件不動産につき訴外小松松次郎(参加人)に対し金五五〇、〇〇〇円、同増田善松に対し金三五〇、〇〇〇円の抵当権の設定があるとの控訴人の原審における主張事実はこれを認めるが、その内容は否認する、被控訴人は原審において、訴外畑田外次と控訴人との間になされた本件不動産についての売買契約を詐害行為として取消すことを求めたが、更に当審においては右売買による所有権取得登記の抹消登記手続をも併せて求めるため附帯控訴に及んだ次第であると述べ、控訴会社代表者において昭和三五年(ネ)第二二三号事件について、参加人の前掲主張事実はすべてこれを認めると述べたほかは、原判決の事実摘示のとおりであるから、こゝにそのすべてを引用する。

理由

先ず参加人の参加申立の適否について判断する。

参加人の本件参加申立の理由とする要旨は「被控訴人は本訴訟において主張するところは別紙目録記載の物件が元訴外畑田外次の所有であつたところ、同人が昭和三四年五月七日これを控訴人に売渡し所有権移転登記手続を経由した。しかし右売渡は売渡人である右訴外人がその債権者である被控訴人の債権を害することを知りながら控訴人へ売渡したもので詐害行為であるから、これが取消並びに右売買契約を原因として昭和三四年五月七日付金沢地方法務局受附第六九四四号を以てなした所有権取得登記の抹消登記手続を求めるというのである。しかし、参加人は昭和三四年六月二日控訴人に対し金五五〇、〇〇〇円を支払期日同年七月二日、右支払期日に弁済を遅滞したときは以後完済まで遅滞金額に対し一ケ月三分の割合による損害金の支払を受けることの約定で貸付け、右債権のため別紙目録記載の物件について順位第一番の抵当権の設定を受け、同日付金沢地方法務局受附第八二四五号を以て第一番順位の抵当権設定登記を受けたものである。従つて、若し控訴人と被控訴人との間の本件詐害行為取消訴訟において控訴人と訴外畑田外次との間の別紙目録記載の物件に対する前記売買契約が詐害行為として取消されるような判決を受けることがあれば、右物件について控訴人より抵当権の設定を受けている参加人の抵当権も当然無効に帰し不測の損害を蒙る結果を受けることゝなり参加人自らの権利を害せられるに到ること明らかであるから民事訴訟法第七一条により当事者参加の申立を為す」というにあることは参加代理人提出の当事者参加申立書に徴し明らかである。

しかし、詐害行為の取消の訴は単に債権者である取消権者と訴訟の相手方である受益者または転得者との関係においてのみ債務者の行為を取消し、これを基礎として、既に権利なきに帰した相手方に対して財産の返還または賠償を目的とするものであるからその効果は相対的であつて訴訟の相手方以外の者との関係においては法律行為の効力に何等の影響を生ぜしめるものではない。従つて債権者が債務者より不動産の譲渡を受けた受益者を相手方として右譲渡が詐害行為であるとしてその取消並びに右譲渡を原因とする所有権取得登記の抹消登記手続を求める訴において、受益者がその不動産の上に他人のために抵当権を設定した場合においてその抵当権を存在せしめても債務者と受益者間の不動産譲渡行為の効力を債権者との関係において消滅せしめるだけで債権者の取消の目的を達しうる場合即ちその不動産を抵当権附のまゝ債務者に復帰せしめても債権者の債権の担保を確保することを得る場合、もしくは債権者が抵当権附の不動産の復帰を以て満足する場合においては債権者は転得者たる抵当権者に対し抵当権設定の取消を請求しなくても受益者に対し右不動産の譲渡行為の取消並びにその所有権取得登記の抹消登記手続を請求することができるものというべく、この場合において債権を詐害すべき法律行為の取消は債権者と受益者との間に相対的に効果を生ずるに過ぎずして、受益者と債務者及び転得者との間においてはなお行為の効力を存続するのであるから債権者と受益者間において不動産譲渡行為の取消があつても受益者の転得者の為めに設定した抵当権は当然消滅しないものといわなければならない。これを本件についてみれば、債権者である被控訴人と受益者である控訴人との間の本件詐害行為取消訴訟において、債務者である訴外畑田外次と受益者である控訴人との間に締結された別紙目録記載の不動産についての売買契約が詐害行為としてこれが取消並びに控訴人の所有権取得登記の抹消登記手続を為すべき裁判がなされても右不動産について控訴人より抵当権の設定を受けている転得者である参加人の抵当権が当然に消滅するものでないことは前段説示に徴し明らかであり、また不動産登記法第一四六条によれば登記の抹消を申請する場合においては登記上利害関係を有する第三者があるときは申請書にその承諾書又はこれに対抗することを得べき裁判の謄本を添附することを要する旨規定されているので本件の場合においては被控訴人が右のような勝訴の裁判を得ても控訴人の所有権取得登記の抹消登記手続の申請をする場合にはその申請書に更に抵当権者である参加人の承諾書又は抵当権者である参加人にも既判力の及ぶような訴訟(この訴訟のうちには、債権者と受益者間の詐害行為取消訴訟において債権者がその訴訟中に転得者である抵当権者に単に訴訟告知をしたに過ぎないような場合の訴訟は含まれないものと解する。けだし訴訟告知は告知者が敗訴したとき被告知者が告知を受けて遅滞なく参加することができた時に参加したと同様にその判決の参加的効力を受けるものであつて、告知者が勝訴した場合被告知者に該判決の既判力を生ぜしめるものではないからである。従つて、本件において被控訴人のなした訴訟告知は全く理由のないものというべきである。)の裁判の謄本を添附しなければならない点に徴しても参加人の抵当権が民事訴訟法第七一条にいわゆる「訴訟ノ結果ニ因リテ権利ヲ害セラルヘキコト」にも該らないことが明白であるから参加人が本件訴訟の結果によつて自己の抵当権が害せられるべきことを理由とする当事者参加の申立は理由のない不適法のものとして却下さるべきものといわなければならない。

次に被控訴人の控訴人に対する詐害行為取消並びに所有権取得登記の抹消登記手続の請求について審究する。

昭和三四年五月七日訴外畑田外次がその所有の別紙目録記載の不動産を控訴人に売渡したことは当事者間に争がなく、成立に争のない甲第一号証によれば控訴人は右不動産につき前同日金沢地方法務局受附第六九四四号を以て同日付売買による所有権取得登記を了したことが認められる。ほかに右認定を動かすに足る証拠がない。

そして、右売買当時、被控訴人が右畑田外次に対する債権の有無、該売買当事者の善意悪意等の詐害行為の有無についての当裁判所の事実認定、証拠並びに法律上の判断はすべて原判決の理由中に説示するところと同一であるから、こゝにこれを引用する。

してみれば、訴外畑田外次が昭和三四年五月七日控訴人に対して為した別紙目録記載の不動産についての売買契約の取消並びに控訴人の右不動産について為した前掲所有権取得登記の抹消登記手続を求める被控訴人の本訴請求は正当として認容すべきである。

従つて、被控訴人の本件附帯控訴は理由があり、控訴人の本件控訴は理由がないから棄却すべきである。

よつて、民事訴訟法第三八四条、第九五条、第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 小山市次 広瀬友信 高沢新七)

目録

金沢市野田町オ三十一番地の一  一、木造瓦葺平屋建 店舗 一棟

一、宅地 三十坪一勺  建坪 一八坪

右同番地 家屋番号第一一八番

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例